岡山大学新聞 再刊第2号(通刊237号) 1978年6月30日発行

「つき」に見離されたジャズのおはなし

 滅多に街をうろつかず、タウン情報誌にも虚な瞳を通さないぼくだけど、それでもこの岡山にジャズ喫茶の看板を四枚も見つけ、さらに、ジャズ中心にレコードを廻す店まで数えれば二十軒はあるだろうという、いやはや、吉祥寺なみだ、と鼻を高くして、ところが此処ではジャズの話が隣に座った人に通じないのだ。誰も呪われた音であるジャズに耳を貸そうとしない。
 太陽が巨蟹宮(月が支配している)に突入すると、惨劇の幕が開く。無慈悲な月は容赦なくジャズメンに殺伐の魔手を伸ばすのだ。理由なんて知らない、月か蟹か占星学者に尋いてくれ。とにかく表を凝視めて欲しい。主な犠牲者のリストだ。ジャズなんて興味ないよと嘘ぶくあなたにもお馴染みの名前ばかりだ・・・たぶん。
 数多くのスタンダード・ナンバーの作曲者<ガーシュイン>や、ジャズの創始者と自称した<モートン>。スウィングの王者<サッチモ>や、ギル楽団の母体となった<ソーンヒル>。ドーシー楽団・グッドマン楽団の名ペット奏者の<エルマン><シェイヴァーズ>が名を連ねている。モンクと共演して話題を呼んだ<ウィルソン>は人気絶頂の時、ニュー・ジャズの旗手<ドルフィー>はこれからという時召されてしまった。
天才の称号を得た<ナヴァロ>や、彼の後継者と騒がれた<ブラウン>、バップのパイオニアとして著名なバドの弟の<リッチー・パウェル>や、ベースの鬼才<ラファロ>は共に嘱望されながら二十代で天折した。
<ビリー・ホリディ><コルトレーン>の命日、七月十七日を津島変態倶楽部が記(忌)念日と制定したという噂も聞いたが………
 これは巨蟹宮がジャズに与えた挑発かはたまた試練か。いずれにしてもジャズはこの苛酷な運命を切り拓いていくだろう。夥しい犠牲者の群を引きずって。その時あなたはジャズに何を聴く?
 残り少い紙面で蟹座生まれのジャズメンについて語る余裕はないが、<アルバート・アイラー>や<リー・モ−ガン>は「つき」がなかっただけだったろうか。
  津島変態倶楽部機関誌 「みどりのばんつ」より  資料引用しました
        みどりいろ

Ziggy Elman (54) 68. 6. 24
Clifford Brown (25) 56. 6. 26
Richie Powell (24) 56. 6. 26
Eric Dolphy (36) 64. 6. 29
Claud Thornhill (55) 65. 7. 1
Scot LaFaro (25) 61. 7. 6
Louis Armstrong (71) 71. 7. 6
Fats Navarro (26) 50. 7. 7
Charlie Shavers (53) 71. 7. 8
Jelly Roll Morton (55) 41. 7. 10
George Gershwin (39) 38. 7. 11
Shadow Wilson (39) 59. 7. 11
Billie Holiday (44) 59. 7. 17
John Coltrane (40) 67. 7. 17


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