阿武単成火山群の活火山調査の報告(byコアラ)
気象庁の火山噴火予知連絡会で活火山の定義が変わり、
これまでは歴史時代(約2000年前まで)に噴火の記録がある場合に
活火山としていましたが、地層に堆積した火山灰等から、
1万年以内に噴火した証拠が有れば、活火山とすることになりました。
中国5県にはこれまでは活火山は有りませんでしたが、
このたびの定義の変更により、島根県の三瓶山(二百名山)と
山口県の阿武単成火山群が新たに活火山になりました。
そこで今回、この阿武単成火山群の調査に、係長と二人で行きました。
現地調査に際しては、山口大学のN先生が案内して下さいました。
仕事での調査ですが、山口県百名山等にも登っているので、
山MLにも簡単に調査報告を致します。
●笠山(標高112.2m)2万5千分1地形図「越ヶ浜」
活火山に認定された最も大きな理由は、
萩市内にある海に飛び出た笠山の形成年代です。
笠山の形が、鎌倉期の女性が被っていた市女笠にそっくりなので、
(牛若丸の母親が被っていた笠などが代表的です)
笠山という名で呼ばれていますが、
安山岩の溶岩台地(溶岩平頂丘)の上にスコリア丘が乗っているものです。
このスコリア丘の年代が約8000年前になるのです。
笠山は中島篤巳氏の山口県百名山でもあり、
世界一小さい火山・火口で知られています。
山口大の先生によると、それは嘘(誤り)らしいですが。
火口の中に入り、スコリアがそれぞれの噴火過程毎に堆積している様子や
スコリアの中の鉄成分が参加して赤くなっている様子や、
熱でスコリアが接着された様子などを観察しました。
また海岸線に下りて、溶岩堤防などの溶岩流地形なども観察しました。
●萩六島 2万5千分1地形図「越ヶ浜」「櫃島」「相島」「通」
阿武火山は単成火山群ですので、
1輪年の火山活動があちこちで繰り返されており、
溶岩円頂丘、溶岩台地(溶岩平頂丘)、スコリア丘など
様々な火山地形が萩市周辺に残されています。
今回は、笠山の他、伏馬山(ふすまやま:スコリア丘)、鍋山(溶岩円頂丘)、
様々な溶岩平頂丘(溶岩台地)などの地形を見てきました。
溶岩台地という地形は、粘性の低い玄武岩溶岩で形成される地形で、
粘性が比較的高い安山岩が溶岩台地(溶岩平頂丘)を作るというのは、
世界的に見てもかなり珍しいそうです。
(安山岩の場合は、普通は粘性があるので溶岩円頂丘を作る)
萩市北東部の笠山の南側の海岸線には、
鶴江台、中ノ台、狐島という表面が真っ平らな半島がありますが、
これらは玄武岩の溶岩台地です。
また、萩市北方の沖合には、萩六島と呼ばれる島々がありますが、
(大島、櫃島、羽島、肥島、尾島、相島)
羽島だけが玄武岩の溶岩台地で、
他の5つは安山岩の溶岩台地(溶岩平頂丘)です。
いずれも笠山から俯瞰すると表面が平らな島ですが、
玄武岩の羽島が他と比較してより平らであることが分かります。
やはり、玄武岩がより粘性が低いことに起因していると考えられます。
●伏馬山(標高499.1m)2万5千分1地形図「長門広瀬」
伏馬山は、阿武単成火山群の中で最も大きなスコリア丘で、
比高が140mあります。
山頂は公園化されており、車で上がることが出来ます。
展望台があり、そこから周辺の火山地形を観察しました。
山頂部には崩壊した跡があり、当時の火口が何処にあったかは、
良くは判らなくなっています。
●鍋山(標高369m)2万5千分1地形図「長門広瀬」
鍋山は、溶岩平頂丘を形成している阿武火山群で唯一、
安山岩の溶岩円頂丘(溶岩ドーム)を形成しています。
比高が約200m位ある、綺麗な溶岩ドームです。
今回の調査では、山頂へは上がらずに、山麓で写真のみを撮りました。
この山は、中島篤巳氏の山口県百名山には指定されています。
山麓の紫福(しぶき)の郷は、隠れキリシタンの里で有名です。
●阿武単成火山群の溶岩台地
阿武単成火山群には、溶岩台地(溶岩平頂丘)の地形がいっぱいあります。
今回観察した代表的な例だけでも、以下のものがあります。
台山 2万5千分1地形図「十種ヶ峰」
西台 2万5千分1地形図「長門広瀬」
千石台 2万5千分1地形図「長門広瀬」
長沢台 2万5千分1地形図「長門広瀬」
平原台 2万5千分1地形図「長門広瀬」「越ヶ浜」
羽賀台 2万5千分1地形図「越ヶ浜」
このうち羽賀台は、台地の上に上がりましたが、
本当に真っ平で、田んぼになっていました。
●青野山単成火山群
また近くには、溶岩円頂丘が主体の青野山単成火山群があります。
こちらは、津和野のシンボル青野山(標高907.6m:溶岩円頂丘)や
十種ヶ峰(とくさがみね:標高988.8m:潜在円頂丘)などを見ました。
ちなみに、青野山、十種ヶ峰共に、中国百名山です。
青野山については、個人的に2002年の9月10日に登っています。
今回チャンスがあれば、十種ヶ峰には登りたいと考えていたのですが、
時間が作れず、山頂には登らず、遠方から潜在円頂丘の形を見ただけです。
青野山単成火山群は、プレートの沈み込みに伴う島弧型の火山です。
一方、阿武単成火山群は大陸型のアルカリ岩系列で、
マントル起源のホットスポット型の火山です。
このように、全くタイプの違う火山が数キロしか離れないで分布する
というのも世界的に珍しいそうです。